相続が発生したとき、故人(被相続人)が持っていた財産を正しく把握することはとても大切です。特に最近は「ネットバンク(ネット専業銀行・ネット取引)」を利用している方が増えており、相続人が気づかないまま口座が残ってしまうケースが珍しくありません。
「通帳もないし、パスワードも分からない。どうやって調べればいいの?」
「銀行に問い合わせたいけれど、何が必要なの?」
今回は、そうした疑問を持つ方に向けて、ネット銀行口座を見つける方法・残高を確認する方法・法定相続情報一覧図の活用について、専門家の立場から分かりやすく解説します。

1.相続財産調査の第一歩は手がかり集め
パスワードが分からなくても、いきなり銀行に連絡するのではなく、まずは自宅に残された遺品や電子データから「手がかり」を探しましょう。
(1)遺品や書類のチェック
- 通帳、キャッシュカード、定期預金証書
- 銀行から届いた郵便物や封筒
- スマホやパソコンの金融系アプリの画面キャプチャ
こうした遺品から利用していた金融機関が分かるケースは多いです。
(2)郵便・メールの確認
- 銀行からのダイレクトメール
- 「ログイン通知」や「入出金通知」メール
ネット銀行は紙の通帳がないため、電子通知が最大の手がかりになることがあります。
(3)確定申告書や源泉徴収票
故人が確定申告をしていた場合、添付書類の中に利息や振込先の銀行名が記載されている場合があります。
- 遺品(通帳・カード)
- 郵便物(銀行からの封書)
- メール(入出金通知)
- 税務書類(申告書・利息記載)
2.銀行に問い合わせる際の流れ
「この銀行に口座がありそうだ」という目星がついたら、相続人や遺言執行者が正式に問い合わせます。
必要書類(基本セット)
- 被相続人の戸籍(死亡が分かるもの)
- 相続人全員の戸籍(相続関係を示すもの)
- 相続人の本人確認書類・印鑑証明
- 遺言書または遺産分割協議書(払戻しまで進める場合)
- 銀行所定の相続届
銀行は死亡を確認すると口座を凍結し、残高証明や取引履歴を開示してくれます。
3.ネット銀行ならではの注意点
ネット専業銀行は、紙の通帳も郵便物もほとんど出さないのが特徴です。そのため以下の確認が特に大切になります。
- メールアドレス(銀行からの通知メールを探す)
- スマホのアプリ一覧(金融アプリの有無)
- クレジットカード明細(銀行引き落としの記録)
- 給与振込口座の履歴(会社経由で確認できる場合も)
もし証拠が見つからなくても、銀行に「相続手続き照会」を出すと残高や口座有無を調べてもらえます。
パスワードは不要
よくある誤解が「パスワードが分からないと相続できない」というものです。
実際には、銀行が相続人にパスワードを開示することはありません。
また、相続人がログインして取引することもできません。
相続人がすべきことは、必要書類を揃えて銀行に正式な手続きを申請することです。
銀行は「正当な相続人」であることが確認できれば、口座の残高や取引履歴を開示し、解約や払戻しの手続きに進めます。
4.法定相続情報一覧図はどこで使えるの?
ここが大事なポイントです。
【法定相続情報一覧図とは】
法務局が発行してくれる、相続人の関係を一覧にまとめた証明書です。戸籍の束の代わりとして提出でき、複数枚発行してもらえます。
銀行手続きでの取り扱い
- 残高照会・相続人確定:法定相続情報一覧図でほぼ全国の銀行が対応
- 口座解約・払戻し:一覧図に加えて、相続人の印鑑証明書や遺産分割協議書が必要
つまり、相続手続きの「第一段階」である残高確認や相続人の確認には法定相続情報で足りますが、実際にお金を引き出す・解約する段階では追加書類が求められる、というイメージです。
5.注意点
実務でよくある注意点
銀行口座を探すうえで実務上よく起こりがちな注意すべき兆候があります。
| 生活水準に合わない高額の資金移動 |
| 死亡直前に第三者口座へ多額の送金 |
| 突然の口座閉鎖(閉鎖直前の出金先を追う) |
| 申告収入と預金の増減が一致しない |
こうした兆候があれば、相続財産が隠れている可能性があります。
法律とプライバシーの注意点
銀行口座情報は厳格に保護されています。
| 相続人または遺言執行者など正当な権限を持つ者のみ照会できる |
| 他人が勝手に調べたり、ログインを試みると、不正アクセスやプライバシー侵害に当たる危険がある |
| 税務署(国税当局)は調査権限により金融機関に照会できますが、これは税務調査に限られる |
👉 ネット銀行の口座は通帳がなく見つけにくいですが、遺品・電子データから手がかりを集めることがまず第一歩です。
もしパスワードが分からなくても、相続人が必要書類を提出すれば残高照会や取引履歴の取得は可能ですし、法定相続情報一覧図があれば戸籍の束は不要です。ただし、解約・払戻しには印鑑証明や協議書など追加書類が必要になるので、パスワードを特定することより、必要書類の準備に専念しましょう。



