不動産が“分けられない財産”であるがゆえの相続トラブル
地主や不動産オーナーの相続で、毎年数多く相談が寄せられるテーマがあります。
それが——
「収益物件をどう子どもに分けたら良いのか?」
です。
賃貸アパート、マンション、商業ビル、駐車場など。
毎月の家賃収入が入り続ける“優良資産”である一方で、相続になると最もトラブルになりやすい財産でもあります。
理由はただ一つ。
収益物件は “分けることができない財産” だからです。
今回は、収益物件の相続で実際に起こるトラブル、なぜ分けられないのか、どう対策すべきかを、わかりやすく解説します。

収益物件ほど相続で揉めるワケ
収益物件は、お金を生んでくれる“優等生の財産”です。
しかし、その性質ゆえに相続争いを誘発します。
理由は次の3つです。
① 不動産は物理的に分割できない
土地や建物は料理のようにカットして分けられません。
・アパートを3等分に切る
・マンションの建物を水平分割する
・土地を無理やり分筆して細切れにする
こんなことは現実的に不可能ですし、無理に分ければ資産価値を下げてしまいます。
② 収益物件には“権限”がある
収益物件を引き継ぐとは、単に「財産をもらう」という話ではありません。
同時に、
●管理
●家賃回収
●修繕の判断
●入居者対応
●税務申告
これらの“経営権”を受け継ぐということです。
つまり、お金と権限の両方が絡むため、相続人同士の利害調整が難しいのです。
③ 共有にすると「100%の確率で揉める」
“不動産は共有にするな”というのが実務の鉄則です。
共有にした結果、次の問題が生まれます。
・修繕について意見が割れる
・家賃収入の分配で争う
・管理会社の選定で揉める
・売却したい人/維持したい人で対立
・判断に全員の同意が必要 → 物事が進まない
その結果、収益物件が塩漬けになり、劣化し、価値が落ちるという最悪の状態を招きます。
実際にあった「収益物件の相続トラブル」ケース
ここで、実務で非常に多い典型的な例をご紹介します。
👉ケース① 家賃収入をめぐる争い
父が亡くなり、古い木造アパートを子ども3人で相続。
法定相続分で3分の1ずつの共有にした。
すると——
「家賃をきちんと分けてくれない」
「修繕費が高すぎる」
「入居者とのトラブルを誰が対応するのか」
など、細かい揉め事が続出。
管理の責任を誰も負いたくないため、アパートは放置され空室が増加。
結果として、家賃収入は半分に。
👉ケース② リフォーム代の負担でもめる
古い賃貸マンションを兄妹が共有。
外壁塗装に700万円必要となった場面で、妹が反対。
妹「そんな大金払えない。もっと先でいい」
兄「このままだと雨漏りする」
意見が割れ、工事は先延ばしに。
数年後、外壁が剥落し、修繕費は1,500万円にまで膨れ上がる。
共有は、修繕の意思決定が止まると致命的です。
👉ケース③ “名義だけの共有”がトラブルを増幅
父の意向で長男が管理していたアパートを、相続後も長男が実質管理し続ける形に。
しかし名義は兄弟3人の共有。
・家賃の取り分
・計算書類の開示
・修繕の判断
・売却の是非
すべてで不満が噴出。
ついには「名義から抜けたい」「売ってほしい」という声が出て調停に。
アパートは裁判の末、安値で売却されることに。
収益物件は“公平に分けることが不可能”な財産
相続人が複数いる場合、不動産相続は公平に見えて、実は公平になりません。
たとえば、次のような問題が発生します。
- 評価額は同じでも、収益力が違う
アパートA:築35年、家賃収入月40万円
アパートB:築10年、家賃収入月90万円
評価額が同じ1億でも、もらう価値は数字以上に異なります。
「収益力の違い」が必ず揉める要因になります。
- 立地が違えば将来価値も違う
同じ価格でも、駅近と郊外では価値の持続性が違います。
「兄はいい物件をもらった」
「私は古くて手間ばかりかかる物件だ」
と不満が生じ、長年のわだかまりになります。
- 管理の負担が公平ではない
収益物件は“経営”です。
管理の負担を誰が負うかで揉めます。
・兄が管理しているから兄に利益が偏る
・管理を分担すると責任の所在が曖昧
・誰も引き継ぎたくない
これらは全てトラブルの火種です。

では、収益物件はどう分けるべきか?
これが最も重要なポイントです。
収益物件の相続は、次の順番で考えるとスムーズです。
① “現物分割”を避ける
収益物件の“現物分割”は公平になりません。
評価額のギャップ、収益力の違い、管理の負担差などがあり、後から不満が噴出します。
② “共有”は絶対に避ける(鉄則)
共有は99%トラブルになります。
・意見が合わない
・管理が機能しない
・修繕ができない
・売れない
・兄弟関係が悪化
これらはすべて共有が原因です。
③ 収益物件の分割は「代償分割」が最も現実的
代償分割とは……
ある相続人が物件を引き継ぎ、他の相続人に現金で“持分の代わり”を支払う方法
不動産は一人が取得し、他の相続人には 代償金(現金) を渡します。
これが最も揉めない方法です。
しかし問題は、物件を引き継ぐ人が、代償金を支払えるか?
という点。現金がなければ成立しません。
④ 生前に“名義の分け方”を決めておく
相続発生後に話をまとめるのは困難です。
・どの物件を誰が継ぐか
・代償金の金額はどれくらいか
・物件を引き継ぐ人の将来の意向
・そもそも物件を引き継ぎたいのか
これらは、生前に本人の意思を明確にしておくことが絶対条件です。
家族会議、遺言書、民事信託などが有効です。
⑤ 「不動産は承継先を1人に絞る」が王道
収益物件の相続で最も成功している家庭は、例外なく次のルールを採用しています。
不動産は1人がまとめて承継し、他の相続人は現金で調整する
理由は明確です。
・管理が一元化される
・空室対策も責任が明確
・修繕の判断も迅速
・家賃収入の責任もハッキリ
・資産価値が維持される
複数人で所有するメリットは一つもありません。
収益物件は“分けられないからこそ揉める”
最後に、ポイントを整理しましょう。
- 収益物件が相続で揉める理由
- 分けることができない
- 経営権が伴う
- 共有すると必ず対立する
- 典型的なトラブル
・家賃の取り分争い
・修繕費の負担問題
・管理の決定権争い
・名義だけの共有で泥沼化
・売却したい/したくないの対立
- 最も揉めない分け方
✔ 不動産は1人に集中して引き継ぐ
✔ 他の相続人には代償金で調整
✔ 生前に本人の意向を確認し、家族会議を行う
✔ 遺言書・民事信託を活用して“分け方”を明確にする
収益物件は、家族の将来に継続的な利益をもたらす“宝物”です。
しかしその宝物が、相続の場面では最大の火種になることも事実です。
だからこそ大切なのは、「相続が起きる前に、家族が納得できる形をつくっておくこと」。
分けられない財産だからこそ、「どう分けるか」を考える時間が、相続対策の核心です。



