まず「生産緑地」とは?
「生産緑地」とは、都市計画法に基づき、市街化区域内にある農地のうち、「農地として守ることが望ましい」と市区町村が指定した土地のことです。
一見すると「農地は田舎にあるもの」と思われがちですが、実は都市部でも「生産緑地地区」として残っている農地は多くあります。
生産緑地に指定されると、次のような制限・優遇があります。
- 農地としての利用が義務(勝手に住宅や駐車場にはできない)
- 税金が安くなる(固定資産税・都市計画税が「農地並み」課税)
- 相続税も優遇あり(「相続税の納税猶予」制度が使える場合も)
一方で、これらのメリットと引き換えに、自由に売却・転用できないという“重み”があります。

では、「生産緑地」を相続したら?
被相続人(亡くなった方)が「生産緑地」を所有しており、令和7年10月に相続が発生したケースで見ていきましょう。
この場合に、相続人が取り得る選択肢を整理してみます。
生産緑地の「解除」と「継続」という2つの道
「解除」
(1)解除できるのは「30年経過後」または「相続時」
通常の生産緑地は、指定から30年経過すると、所有者が希望すれば解除(農地から宅地などに転用)できます。
しかし、それより前に「所有者が死亡した」場合にも、相続人が農業を続けない意思を示せば解除を申し出ることができます。
これを「生産緑地の買取申出制度」といいます。
(2)解除を希望する場合の流れ
1. 相続開始後、相続登記を行う
2.市区町村へ「生産緑地買取申出書」を提出
3.行政が3か月以内に買い取るかどうか検討
4.市区町村が買い取らない場合、他の農業者などへあっせん
5.それでも買い手がない場合、生産緑地指定は解除
市がすぐに買い取ることはまれで、多くの場合は“買い手なし”となり、3か月経過後に指定解除となります。
解除されると、通常の宅地として扱われ、建物の建築なども可能になります。
ただし、税金は一気に「農地並み」から「宅地並み」に上がります。
特に固定資産税・都市計画税が数十倍になることがあるため、解除を選ぶ場合は必ず資金計画を立てる必要があります。
| ✅ メリット | ⚠️ 注意点 |
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「継続」
もっとも多いのが、「農業を継ぐ」選択です。
相続人が自ら農業を行う、または親族・第三者に貸して農業を続けることで、生産緑地の指定は維持され、税の優遇も継続します。
| ✅ メリット | ⚠️ 注意点 |
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「特定生産緑地」とは、解除可能な時期(30年経過)を迎えたあとも、引き続き農地として守ることを選択した土地のことです。
指定を受けると、次のような特徴があります。
- 指定後も10年ごとに更新できる
- 税の優遇(農地並み課税)が継続される
- 解除したいときは、10年経過ごとに申請が可能
つまり、「特定生産緑地」は、従来の生産緑地の“延長版”のような存在です。
相続税のポイント:「納税猶予制度」を知っておこう
生産緑地の相続で見落とされがちなのが、相続税の納税猶予です。
これは、相続人が一定の要件を満たして農業を継ぐ場合、その農地の相続税の納税を猶予(実質的に免除)してくれる制度です。
主な要件
- 相続人が「農業相続人」であること(実際に耕作する)
- 生産緑地として利用を継続すること
- 相続税申告期限までに「納税猶予の申請」を行うこと
この制度を使えば、相続税の負担を大幅に軽減できます。
ただし、将来農業をやめたり、土地を売ったりすると、猶予分を一括で納める必要があります。
そのため、「後継者が本当に農業を継ぐのか」をよく話し合って決めることが重要です。
相続後にすべきこと
- 農業を継ぐかどうか(家族間で話し合う)
- 税金の影響を試算する(税理士に相談)
- 市区町村の担当課に方針を確認する
生産緑地・特定生産緑地は、都市の中で農業を守る大切な制度です。
一方で、税や手続きが複雑で、知らないまま相続を進めると、思わぬ税負担やトラブルを招くこともあります。
【実際のスケジュール】
| 時期 | 主な手続き | 関係先 |
| 相続発生直後 | 相続登記の準備・遺産分割協議 | 法務局・税理士 |
| 相続税申告期限(10か月以内) | 納税猶予の申請(希望する場合) | 税務署 |
| 相続登記完了後 | 生産緑地買取申出または継続申請 | 市区町村農政課 |
| 3か月以内 | 行政による買取検討 | 市区町村 |
| 解除or継続 | 必要に応じて土地活用・再指定 | 所有者 |
もし「相続した生産緑地をどうすべきか悩んでいる」「税金がどう変わるのか知りたい」という場合は、行政手続きと税務の両面に詳しい専門家(税理士・行政書士など)に早めに相談しましょう。
状況に応じて、
- 継続(特定生産緑地の維持)
- 解除(宅地化・売却)
- 農地の貸与・転用
など、最適な選択肢を一緒に整理してもらうことが大切です。
「生産緑地の相続」は、土地の価値よりも“どう守るか・どう使うか”を家族で考えるタイミングです。
税金・行政・将来の活用を総合的に見て判断することが、後悔しない相続への第一歩になります。



