――「うちは大丈夫」と思っていた家ほど、なぜ苦しくなるのか
「土地はたくさんあるし、親の代では相続税で困った話も聞いていない。だから、うちもきっと大丈夫だと思っていました。」
そう話すのは、関東近郊で先祖代々土地を守ってきた地主の二代目、Aさん(50代)。
父の相続を意識し始め、税理士に相談したところ、思わぬ言葉を告げられたといいます。
Aさん
「このままだと、相続税を払うために“土地を売る”可能性が高いですね、と……。
正直、頭が真っ白になりました。」
なぜ、親の代では問題がなかった相続が、二代目になると一気に苦しくなるのか。
その理由を、相続税を数多く見てきた税理士の境内先生に聞きました。

「昔は払えた」の正体は、実は“偶然”だった
―― 先生、Aさんのように『親の代では大丈夫だったのに』と戸惑う二代目地主は多いのでしょうか?
境内
非常に多いです。むしろ、典型的なケースと言っていいですね。
―― なぜそんなことが起きるのでしょうか?
境内
理由は大きく3つあります。
まず一つ目は、親世代の相続税は“たまたま払えただけ”というケースが多いことです。
親世代の相続では、
- 土地の評価額が今よりずっと低かった
- 相続税の基礎控除が今より大きかった
- 相続人が多く、税額が分散されていた
こうした条件が重なり、「深刻な問題にならなかった」だけ、というケースが少なくありません。
ところが二代目になると、これが一気に逆転します。
地価は上がり、相続人は減る――二代目にのしかかる現実
―― 逆転、というのは?
境内
例えば、同じ土地でも評価額は親の代より大幅に上がっている。
一方で、相続人は兄弟2人、あるいは1人だけ、というケースも多いですよね。
評価額は増え、分ける人数は減る。
当然、一人あたりの相続税負担は跳ね上がります。
Aさん
父の代の相続税額を聞いていたので、それを基準に考えていました。
正直、全然違う世界でした……。
境内
さらに厄介なのが、現金が増えていないという点です。
「土地はあるのに、現金がない」地主のジレンマ
地主の財産は、その多くが土地。
賃貸収入はあっても、生活費や修繕費、固定資産税で消えていく。
境内
相続税は、原則として現金一括納付です。
ところが、いざ相続が起きると“払うための現金がない”。
Aさん
土地は山ほどあるのに、通帳を見ると心もとない……。
『資産家なのに貧乏』と言われる意味が初めて分かりました。
ここで多くの二代目地主が、初めて気づくのです。
相続税対策=節税ではなく、“納税資金対策”が本質だったということに。
「節税」ばかり考えた結果、身動きが取れなくなる
―― 相続対策というと、節税を思い浮かべる人が多いですよね
境内
ええ。ただ、節税ばかりを意識しすぎると、逆に詰みます。
例えば、
- 評価を下げるために土地を細かく分けすぎた
- 共有名義にしてしまい、売却も担保提供もできない
- 利回りの低い不動産ばかり増えている
結果として、“動かせる資産”が何もない状態になるのです。
Aさん
まさにうちです。
売ろうにも兄弟の同意が必要、借りようにも担保評価が足りない……。
二代目地主が本当に考えるべきこと
―― では、二代目地主は何を考えるべきなのでしょうか?
境内
いたってシンプルです。
『相続税をいくら払うのか』と『そのお金をどう用意するか』を分けて考えることです。
- いくら相続税がかかるのか
- そのうち、現金で用意できる額はいくらか
- 足りない分をどう補うのか(売却・融資・組み換え)
この整理を、相続が起きる前にやっておくことが、二代目には不可欠です。
「親が元気な今」が、唯一のチャンス
Aさん
正直、父にお金の話をするのは気が引けますね。
境内
でも、親が元気な今しかできない対策がほとんどです。
亡くなってからでは、選択肢は一気に減ります。
土地を守る相続も、家族が揉めない相続も、準備できるのは“今”だけ。
二代目地主が詰まないために
親の代では問題なかった――
それは、将来も大丈夫という保証にはなりません。
むしろ二代目は、
- 税額が増える
- 現金は増えない
- 選択肢は減る
という、最も厳しい世代です。
だからこそ必要なのは、「節税」よりも「現実を知ること」。
相続税を払えるかどうか。土地を守れるかどうか。
それを冷静に考え始めた人だけが、“詰まない二代目地主”になれるのです。



