「この土地、どうやって分けるんですか?」
相続の現場で、私が何度も聞いてきた言葉です。
被相続人が残したのは、
・自宅
・貸家
・先祖代々の土地
現金はほとんどない。
兄弟は2人、3人。仲は悪くない。
でも、分けようがない。
「売るしかないんでしょうか」「でも、できれば残したいんです」
ここで登場するのが、代償分割という方法です。
ところがこの代償分割、知っているつもりで、実は誤解されていることが非常に多いのです。
今回は、
・なぜ代償分割が争続を防ぐのか
・どこで失敗するのか
・実務で本当に使える形とは何か
を、実例ベースで解説します。

そもそも代償分割とは何か
代償分割とは、一人が不動産を取得し、その代わりに他の相続人へお金(代償金)を支払う分け方です。
たとえば
・長男が自宅と賃貸不動産を相続
・次男・長女には、長男から代償金を支払う
「現物は分けないが、価値は公平に分ける」 これが代償分割の本質です。
【実例①】売却寸前だった地主一家
相続財産
・自宅土地建物
・賃貸アパート1棟
・預金:ほぼゼロ
相続人
・長男(同居・家業承継)
・次男(別居)
・長女(別居)
最初の話し合いは、こうでした。
次男「公平に分けるなら、売却しかないよね」
長女「でも長男が住んでる家を売るの?」
長男「できれば残したい…」
感情は理解できます。でも、解決策がない。ここで代償分割を提案しました。
代償分割の設計ポイント①
👆「評価額」を曖昧にしない
まずやったのは、不動産の相続税評価額を全員で共有すること。
ここを曖昧にしたまま進めると、必ず揉めます。
「そんな価値あると思ってなかった」
「安く見積もってない?」
評価は、税務基準で一本化。感覚ではなく、数字で揃える。
これが第一歩です。
代償分割の設計ポイント②
👆代償金は「今すぐ払える必要はない」
多くの方が誤解しています。「現金がないから、代償分割は無理ですよね?」
いいえ。そんなことはありません。
この事例では、
・長男が金融機関から融資
・賃料収入を返済原資に
・長期で代償金を支払う という設計にしました。
結果、土地は売らずに済み、他の相続人も「公平感」を持てました。
【実例②】代償分割が“争続”に変わったケース
一方、失敗例もあります。
!問題点
・代償金の支払期限があいまい
・金額だけ決めて、方法を決めていない
・「そのうち払う」という口約束
数年後、「まだ払ってもらってない」「そんな約束はしていない」
結果、調停へ。代償分割は、設計を間違えると争続の火種になります。
代償分割の設計ポイント③
👆必ず「遺産分割協議書」に落とす
代償分割で絶対に外してはいけないのが、金額・支払期限・支払方法を、遺産分割協議書に明確に書くこと。
あいまいさは、後の不信と争いを生みます。
税務上の注意点、ここが落とし穴
代償分割は、税務でも注意点があります。
① 代償金は「贈与」ではない
正しく分割されていれば、贈与税はかかりません。
しかし、形式が曖昧だと贈与認定されることも。
② 相続税評価とのズレ
時価で払うのか、相続税評価で払うのか。
ここを整理せずに進めると、税務上の誤解が生じます。
税務と法務はセットで設計する必要があります。
なぜ代償分割は「争続回避の切り札」なのか
代償分割が優れている理由は、ただ一つ。
「感情」と「現実」の両方を救えるからです。
土地を守りたい人の想い、公平に分けたい他の相続人の気持ち、どちらも否定しない。
売却という“後戻りできない選択”をせずに済む。
これが、代償分割の最大の価値です。
代償分割は「設計」で9割決まる
代償分割は、魔法ではありません。
ですが、正しく設計すれば最強の争続回避策です。
重要なのは、
- 評価を共有する
- 支払方法まで具体化する
- 書面に残す
そして何より、相続が起きる前から考えておくこと。
不動産は分けられない。でも、想いは分け合える。
その橋渡しをするのが、代償分割という仕組みなのです。



