祖母と父が同時に亡くなった場合の相続はどうなるの?

~二重相続・同時死亡の法律・税務の考え方を整理~

【事例】

私は長男です。

ある日突然、交通事故で祖母と父を同時に失いました。祖母の車を父が運転していたのですが、相手車両のわき見運転が原因で衝突事故にあいました。

このように、「同一の事故」で複数の家族が亡くなった場合、相続の順序が非常に重要になります。

なぜなら、誰が誰の財産を相続したかによって、相続税の負担や財産の承継先が大きく変わることになるからです。

では、今回の事例をもとに、相続の流れを詳しく解説していきます。

1.家族構成と財産の概要

登場人物と財産の内訳は、次の通りです。

  • 祖父:10年前に死亡
  • 祖母:今回の事故で死亡
    └ 財産:不動産・預金・上場株式など 合計10億円
  • 父:同じ事故で死亡(祖母の子)
    └ 財産:預金 約5億円
  • 母:存命
  • 長男(私)・長女:存命

つまり、祖母の財産(10億円)と父の財産(5億円)を、同時に処理しなければならない事例です。

ポイント① 「同時死亡」の法律的な考え方

民法では、複数の人が同一の事故などで亡くなった場合、「どちらが先に亡くなったか不明」であるときには、「同時に死亡したものとみなす」とされています(民法第32条の2)。

この「同時死亡」となると、互いに相続し合うことはできません。

つまりこの事例では、祖母と父が同時死亡 → 父は祖母の相続人にはならない。
よって、祖母の財産は「父を飛ばして」次の世代(孫)に直接相続される。

ということになります。

2.財産は誰が相続するのか?

【祖母の財産の場合】

祖母の法定相続人は本来、

  • 子(=父)
  • 配偶者(祖父)はすでに死亡済み

となります。

しかし、父が祖母と「同時死亡」なので、父は祖母の相続人にはなりません。

この場合、父の子(=私と長女)が、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という制度により、祖母の相続人となります(民法887条2項)。

したがって、祖母の財産10億円は法定相続では次のように相続されます。

長男(私):1/2
長女:1/2

【父の財産の場合】

次に、父の財産(預金5億円)です。

父の法定相続人は:

  • 妻(母)
  • 子(私と長女)

です。

祖母は同時死亡のため、父の相続人にはなりません。

したがって父の財産5億円は:

妻(母):1/2
長男(私):1/4
長女:1/4

という割合で法定相続では相続されます。

財産の帰属 相続人 相続割合 備考
祖母の財産(10億円) 長男(私) 1/2 代襲相続
長女 1/2 代襲相続
父の財産(5億円) 1/2 配偶者
長男(私) 1/4
長女 1/4

※上記の分配は法定相続の割合であって、遺産分割協議によって相続人同士の話し合いで自由に分けることはできます。

ポイント② 「相続税申告」は2つ同時に行う

ここで注意が必要なのは、「祖母の相続」と「父の相続」は別々の相続事件として扱われる点です。

つまり、

  • 祖母の死亡日を基準とする「祖母の相続税申告」
  • 父の死亡日を基準とする「父の相続税申告」

この二つの申告を、それぞれ行う必要があります。
(どちらも「死亡から10か月以内」が申告期限)

ただし実務上は、死亡日が同じ日のため、同一期限で二つの申告書を同時に提出するケースがほとんどです。

ポイント③ 相続税の計算上の注意点

今回のように「二重相続」が発生すると、相続税の控除額や課税計算で注意すべき点があります。

(1)基礎控除の計算

相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。

したがって、

  • 祖母の相続:法定相続人は長男・長女 → 2人
    → 基礎控除額=3,000万+600万×2=4,200万円
  • 父の相続:法定相続人は母・長男・長女 → 3人
    → 基礎控除額=3,000万+600万×3=4,800万円

となります。

(2)相続税の二重課税防止の扱い

同時死亡の場合は、祖母→父→孫という相続の連鎖は生じません。
したがって、「二重課税」にはなりません。

これは、父が祖母の財産を相続していないためです。
(もし「祖母が先に死亡→その直後に父が死亡」という順序が明確であれば、一度父に財産が渡り、次に孫が相続する形となり、税務上は二重課税となります。)

ポイント④ 「交通事故」による損害賠償の扱い

今回の事故では、相手車両の過失により祖母と父が死亡しています。

この場合、加害者側からの損害賠償金(慰謝料や逸失利益)が発生します。
これらの損害賠償金は、「亡くなった方に生じた財産権」として、相続財産に含まれる場合があります。

つまり、

  • 祖母に対する損害賠償請求権は → 祖母の相続人(孫2人)へ
  • 父に対する損害賠償請求権は → 父の相続人(母・長男・長女)へ

それぞれ相続されることになります。

ただし、実際の賠償金額は交通事故の調査結果や保険会社との交渉によって決まります。

3.実務の進め方(長男がやるべきこと)

私(長男)が中心となって進める場合、次のようなステップで整理していくのが現実的です。

1. 死亡届の提出・戸籍謄本の収集
祖母と父の除籍・改製原戸籍を同時に取得

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2. 相続関係説明図の作成
祖母と父それぞれについて相続関係を図示し、登記や税務で使用

👇

3. 財産目録の作成
預金・不動産・株式・保険・損害賠償請求権など、すべて洗い出す

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4.遺産分割協議書の作成
祖母の財産分割と父の財産分割を別々に作成

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5.不動産の名義変更(相続登記)
祖母名義→孫、父名義→母・子へ

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6. 相続税申告・納税
税理士に依頼し、祖母と父それぞれの申告書を同時提出

 

今回のように、同一事故で複数人が亡くなるケースでは、「死亡の順序」ひとつで相続の形がまったく変わります。

  • 同時死亡とみなされる場合:互いに相続しない
  • 死亡の順序が明確な場合:順番に相続が連鎖(=二重課税リスク)

また、申告も「二件同時進行」になるため、実務上は税理士・司法書士・弁護士のチーム対応が必要です。

突然の不幸で精神的にも大変な中ですが、こうしたケースこそ、冷静に法と税務の流れを整理することで、無用な税負担やトラブルを防ぐことができます。

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