―― 今日は「高齢の親が不動産を持ちすぎているリスク」についてお伺いします。
特に地主や昔から土地をたくさん持っているご家庭では、親の高齢化・認知症が大きな問題になると言われますが、なぜそんなに危険なのでしょうか?
一言で言えば、“認知症になった瞬間、不動産の管理も相続対策も、完全に手が止まってしまうから”です。
多くの方は認知症になると「生活が困る」といったイメージを持つだけですが、不動産を複数所有する高齢者の場合、影響は比較にならないほど深刻です。
―― 管理が止まってしまうとは、具体的にはどういう状態ですか?
認知症になると、法律行為ができなくなります。
つまり、以下の行為がすべてできなくなってしまいます。
- 不動産の売却
- 不動産の賃貸借契約
- 金融機関での借入・返済条件変更
- 管理会社との契約
- アパートの修繕・建て替えの決断
- 相続税対策の実行
- 土地の測量・名義の整理
- 農地の転用や駐車場化
1つでも重要ですが、地主の場合はこれらが同時に止まるので、家族の生活・事業・納税に直撃します。
―― それは確かに危険ですね。
よく「認知症になった親名義の土地を売りたくても売れない」という話を聞きます。
その通りです。
親が認知症になると、家族は勝手に売却も契約変更もできません。
唯一の手段は「成年後見制度」ですが、これも問題があります。
―― 成年後見制度のどこが問題なのでしょうか?
成年後見制度は、“財産を守るための制度”であって “資産を動かすための制度”ではないということです。
つまり後見人の役割は、「財産を減らさないようにする」こと。
そのため、
- 不動産の売却
- 相続税対策の実行
- 家族への資金移動
- 生前贈与
といった行為は、ほぼ認められません。
しかも、後見人は家族ではなく、専門職(司法書士・弁護士)が選ばれるケースが非常に多いので、毎月の報酬も発生します。
つまり、
不動産は売れず、相続対策もできず、管理費は増え続ける
という「負のループ」に陥るのです。
―― では、そうなる前に何をすべきでしょうか?
もっとも重要なことは、“認知症になる前に不動産管理を一本化すること”です。
これをしておくだけで、家族の将来は劇的に変わります。
―― 「管理の一本化」とはどういう意味でしょう?
地主の親が高齢になると、実はこんな問題を抱えています。
■ 高齢の親の“不動産管理の実態”
- 土地が10筆以上ある
- 名義が親1人(または父母でバラバラ)
- 管理会社が複数
- 家族はどの土地がどこにあるか把握していない
- ローン残高を誰も知らない
- 自動引き落としの銀行口座も親しか知らない
- 固定資産税の納付書をどこにしまったかも不明
これらが「親しか知らない」状態だと、認知症になった瞬間、完全にブラックボックス化し、取り返しがつかなくなります。
そこで必要になるのが管理の一本化です。
―― 管理の一本化とは、どういうステップで進めるのでしょうか?
大きく分けると以下の4ステップです。
👆ステップ①:すべての不動産情報を「見える化」する
まずは徹底的に棚卸しします。
- 土地・建物の住所
- 地番
- 広さ
- 固定資産税評価
- 路線価
- 権利関係(借地・借家・共有)
- 管理会社
- 家賃収入・経費
- ローン残高
- 担保設定
- 賃借人の状況
多くの場合、親も正確に把握していません。
―― 確かに、地主の方の不動産って「思っているより多い」と聞きます。
その通りです。
農地、駐車場、雑種地、底地など、“自分の意識していない土地”が大量にあるのが地主家の特徴です。
👆ステップ②:親の同意を得て、管理権限を移す(委任状など)
管理を一本化するには、親から子への委任契約が必須です。
- 入居者対応
- 修繕決定
- 管理会社とのやり取り
- 固定資産税の支払い
- 各種手続きの代行
これらを子どもが行えるようにしておきます。
ここで重要なのは、「名義変更とは別」という点です。
名義は親のままで問題ありません。
大事なのは“権限移譲”です。
👆ステップ③:口座や書類を整理し、家族が管理できる状態にする
高齢の親は、
- 銀行口座が多い
- 通帳がどこにあるか分からない
- 自動引き落としを把握していない
などが非常に多い。
ここを整理しないと、「どの口座に家賃が入っているかわからない」という最悪の状態になります。
管理集約のポイントは以下です。
- 家賃収入を1つの口座に集約
- 固定資産税も同じ口座から支払い
- 書類はファイル化して子が管理
- 管理会社も可能であれば一本化
認知症になる前にこれをやっておかないと、家族は“管理迷子”になります。
👆ステップ④:本人が元気なうちに「将来の管理方針」を決める
もっとも大切なのは、親本人が意思決定できるうちに話し合うこと。
- どの建物を維持するか
- どの土地を売却してもよいか
- 借家人との関係性
- 修繕をどうするか
- 将来、誰が相続して管理するか
これを決めておけば、認知症後に家族会議が必要なくなります。
―― ここまで聞いて分かりましたが、“認知症になる前”が本当に重要なのですね。
本当にその通りです。
私は何百件も地主の相続を見てきましたが、結論を言います。
◆ 認知症になってからできる相続対策はほぼゼロ
◆ 認知症になる前にやった家はほぼ揉めない
◆ 認知症後に親名義の不動産は一切動かせない
この3つは絶対法則です。
―― 家族信託というものもありますが、管理の一本化とどのように違いますか?
両者を比較対比しますね。
そもそも両者の目的の違い
【管理の一本化】
- 目的:不動産の管理を実務的に集約して、混乱やトラブルを避けるための“現場改善”
- 手段:名義を整理、管理会社一本化、家族内で“誰が実務を担当するか”を決めるなど
- 法律的に権限を移転する度合い:小さい
【家族信託】
- 目的:親が元気なうちに、財産の“法律上の権限”を子に託し、認知症後も資産が動く仕組みを作ること
- 手段:信託契約(財産の名義は受託者に移転)
- 法律的に権限を移転する度合い:大きい
- 主な効果:認知症後も賃貸・売却・建替えなどの“意思決定”が止まらない
費用・手続き
【管理の一本化】
- 費用:ほぼゼロ〜数万円(契約書作成等)
- 手続き:軽い
- 信託ほどの法的拘束力はない
【家族信託】
- 費用:50〜150万円(専門家費用+登記費用)
- 手続き:信託契約、名義変更(信託登記)、金融機関の“信託口口座”開設
- メンテナンスも必要
→費用・手間は明確に信託が重い。
認知症リスクへの対応
【管理の一本化】
- 親が認知症になると「委任契約は終了」
- 親名義の不動産は売れない
- 大規模修繕や借り換えが止まる
- 最終的には後見人制度が必要になる(家族の希望通りの判断ができない場合もある)
【家族信託】
- 親が認知症になっても、受託者(子)が管理・売却・賃貸すべて可能
- 後見制度を回避できる
- 資産運用・建物建替え・借換えなども信託内容次第で可能
→認知症対策は圧倒的に家族信託が有利。
銀行取引・税務
【管理の一本化】
- 信託ほどの制限はない
- ただし親の代理としての扱いのため、認知症後は全て停止
【家族信託】
メリット:信託口口座を開けば管理はクリア
デメリット:まだ金融機関実務が完全に統一されておらず、行によって取り扱いが違う
信託後の会計処理を雑にすると、税務調査で説明が必要
遺産分割・相続対策
【管理の一本化】
- 死亡後は普通に「相続」になる
- その時点で相続人間の争いが発生しうる
- 遺言が必須
【家族信託】
- 「信託財産」は相続財産と分離扱い
- 信託契約に“承継先”を決めておけば遺産分割が不要(但し遺留分には注意が必要)
複数の不動産を持ちすぎている家の実務性
地主・不動産オーナーの場合の難しさ
- 賃貸物件が複数
- 借入がある
- 役所手続き・更新手続きが多い
- 管理会社とのやり取り
- 地代・固定資産税の支払い
- 老朽化・立退き・建替え判断
- 銀行の借換え交渉
- 相続人が多い
こうしたケースでは、管理の一本化だけでは限界
管理の一本化では、結局すべて“親の判断”が必要となり、認知症になった途端、所有不動産が凍結してしまいます。
売りたくても売ることができず、建替えもできないため、管理落ちで空室が増加してしまうことも多々あります。
家族信託の方が圧倒的に適している条件
- 賃貸物件数が多い
- 親の年齢が80歳以上
- 相続争いの要素がある
- 兄弟間の利害が複雑
- 建替え・売却を検討
- 親が銀行交渉を子に任せたい
→資産規模が大きければ大きいほど、家族信託は“必須レベル”になる。
―― なるほど。本当にケースバイケースですね。では最後に、高齢の親を持つ読者にメッセージをお願いします。
不動産の相続対策は、認知症との時間勝負でもあります。
不動産が多い地主家では
- 「管理の一本化」=最低限やるべき“整理整頓”
- 「家族信託」=将来の凍結リスクを防ぐ“仕組み化”
両方を対立概念にするのではなく、
- ステップ1:管理の一本化(現場整理)
- ステップ2:家族信託で認知症後も動ける仕組みを作る
というように段階的に考えることが重要です。



