地主が陥りがちな“資産リッチ・キャッシュプア”の深刻な現実
「うちは土地が10億円以上あるから、相続は安心です」
そう考えている地主さんは非常に多いものです。
しかし現実は——
「資産は10億あるのに、相続税が払えない」というケースが全国で頻発しています。
いわゆる “資産リッチ・キャッシュプア” 問題。
つまり「資産はあるが現金がない」状態で、地主相続の最も危険な落とし穴です。
本記事では、この現象がなぜ起きるのか、どんな家庭が危ないのか、どうすれば回避できるのかを、専門家としてわかりやすく解説します。
10億円の相続でも「税金が払えない」という現実
「10億円の相続なら余裕で払えるでしょ?」
そう思われがちですが、相続の世界ではまったく逆です。
地主さんの場合、10億円の遺産構成の中身はほぼこうです。
- 自宅土地:1億〜2億
- 先祖代々の農地・山林:3億〜5億
- 駅から離れた土地:2億
- 駐車場や雑種地:1億
- 現預金:数千万円〜多くても1億
つまり、ほとんどが土地で“換金できない財産”なのです。
土地は売らない限り現金にはなりません。しかし相続税は“現金”で納めなければなりません。
このギャップこそが、地主の相続を苦しめます。
地主の相続が危険な理由
現金が少ないのに“評価額”が高すぎる
地主の土地は、実際には売れない土地でも、相続税評価額は高額になることが多いのが現実。
- 農地
- 市街化調整区域
- 道路に接していない土地
- 借地権が設定されている土地
- 収益が低いアパートの敷地
- 売却しにくい細長い土地
こういった土地も、相続税評価は数千万円〜億単位になるケースが珍しくありません。
つまり——
売れない土地ほど、相続税評価額が高くつくことがあるという、地主にとって最悪の構造が存在するのです。
収益物件の“評価額”と“実際のキャッシュ”のギャップ
相続税評価に使われるのは、土地と建物の“評価額”です。
しかし、評価額はあくまで税法上の数字。
- 築30年のアパート:評価 1億2,000万円
→実際の売却価格は7,000万円
→毎月のキャッシュフローはわずか10万円程度
こんなことが日常茶飯事です。
つまり——
見た目は“1億円の資産”。
中身は“年120万円しか生まない不良資産”。
このアンバランスさが、相続税の支払いを困難にさせます。
「相続税の納付は10ヶ月以内」→時間がなさすぎる
相続税の納付期限は たった10ヶ月しかありません。
10ヶ月で以下の作業を全てを行う必要があります。
- 資産の調査
- 土地の測量・境界確認
- 評価
- 資産分割の話し合い
- いらない土地を売却
- 代償金の調整
- 相続税の納付資金の確保
これを、相続が発生して初めて着手するご家庭がほとんど。
その結果「10億円の土地はあるのに、相続税を払う現金がない」という、信じがたい状況に陥ります。
典型的な“資産リッチ・キャッシュプア”例
ここで、相談で非常に多い典型的なケースをご紹介します。
ケース①:収益がほぼ出ていない“古いアパート”が資産を圧迫
家賃収入は年間200万円ほど。しかし相続評価は土地建物込みで 1.5億円。相続税負担は約3,000万円。
家賃収入から税金を払えるはずがありません。
結局、泣く泣くアパートを売却することに。
しかも売却価格は9,000万円。
「評価1.5億」と「時価9,000万円」の差が重くのしかかりました。
ケース②:「売りたくない土地」が税金だけ重くのしかかる
地方の広大な農地が評価で4億円。しかし収益はゼロ。
農地はすぐに売れません。
開発許可も必要で、なかなか買い手もつきません。
しかし相続税は現金で数千万円が必要です。
結果、現金が足りず、都市部の収益物件(家賃月80万)を手放して資金を確保することに。
家族全員の生活プランが狂いました。
ケース③:子ども同士で共有 → 修繕費が払えずさらに悪化
共有したアパートは外壁補修に800万円必要。
「今は払えない」「自分には関係ない」と言い出す兄弟。
修繕が遅れ、空室率が上がり、収益は大幅ダウン。売ろうにも老朽化で買い手がつかない。
まさに“負のスパイラル”です。
地主の相続で最も危険なのは「現金が不足する」こと
地主の相続が恐ろしいのは、富裕層なのにお金に困るという“構造的問題”があるからです。
その構造は次の通り。
▶ 土地が多い家庭ほど評価額が上がりやすい
↓
▶ 資産はあるが現金は増えない
↓
▶ 相続税は現金で一括納付
↓
▶ 手元の現金が足りず、優良物件から先に売ってしまう
↓
▶ 収益基盤が弱まり、次の相続がさらに厳しくなる
これが多くの地主家庭が陥る“負の連鎖”です。
では、どうすれば回避できるのでしょうか?
地主がやるべき対策は3つだけ
資産リッチ・キャッシュプアを防ぐためには、特別なことをする必要はありません。
しかし「今から準備する」ことが何より重要です。
① 相続税の概算額を“今すぐ”把握する
地主家庭の相続対策はここから始まります。
- どの土地が評価されるのか
- いくら税金がかかるのか
- 今の現金で足りるのか
- 不足するなら売却候補はどの土地か
これを把握していない家庭ほど危険です。
“10億の遺産”=“相続税1億〜2億”は珍しくありません。
② 現金を増やす努力をする
現金が多い家庭ほど相続対策の自由度は高くなります。
そこで、地主の方が取るべき方法は次の通りです。
- 収益性の低い物件を早めに売却
- 老朽アパートを建て替える
- アパートローンの借換
- 生前贈与や法人成りで税負担を調整
- 不要な土地を売り、現金に変える
現金 > 不動産 のバランスを作ることを最優先にしましょう。
③ “売る土地・残す土地”の仕分けを生前に行う
相続が始まってから売るのでは間に合いません。
- 売却しやすい土地
- 家族が残したい土地
- 手放すべき不良土地
- 将来価値が下がる土地
これを生前に整理し、「相続後に慌てない状態」にしておくことが重要です。
地主相続は“準備していない家庭”から崩れていく
最後にもう一度、最も重要な事実をお伝えします。
地主の相続で破綻する家庭は、資産が少ないからではなく、資産が“土地ばかり”だから破綻する。
そして、相続税は“現金でしか払えない” という最悪の仕組みが、この問題をさらに深刻にします。
資産リッチ・キャッシュプアにならないために必要なのは、
- 税額の把握
- 資産の棚卸し
- 生前の計画
- 売却の優先順位づけ
- 現金比率の向上
この5つです。
地主の相続は、対策している家庭ほどスムーズに、対策していない家庭ほど激しく崩壊します。相続対策の核心です。



