二次相続まで見据えた「配偶者居住権」の活用

― 一次相続での工夫が、将来の相続税を軽くする ―

相続対策を考えるうえで、多くのご家庭が見落としがちなのが「二次相続」です。
たとえば、お父さまが亡くなったとき(一次相続)に、お母さま(配偶者)がどのように財産を受け取るか。
このときの分け方次第で、お母さまが亡くなったとき(二次相続)の相続税負担が大きく変わることがあります。

今回は、そんな二次相続まで見据えた分割方法のひとつである「配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)」について、解説します。

配偶者居住権とは?

令和2年(2020年)から新しく設けられた制度で、「亡くなった夫の持ち家に、残された妻が生涯住み続けられる権利」です。

たとえば次のようなケースです。

★事例

ご主人(被相続人)が自宅(土地建物)を所有し、妻と長男が同居していました。
ご主人が亡くなり、相続財産は自宅と預金。

以前なら、自宅を妻が相続するか、長男が相続して妻が無償で住み続けるか、のどちらかでした。
しかし配偶者居住権を使うと、

  • 建物の所有権は長男に渡しつつ、
  • 居住する権利(配偶者居住権)だけを妻が取得する、
    という「分け方」ができるようになりました。

つまり、住む権利と所有権を分けて相続できるのです。

配偶者居住権の税務上の扱い

この権利は「財産権」として扱われ、相続税の対象になります。
ただし、価値の算出方法が通常の所有権とは異なります。

配偶者居住権の評価額は、

  • 建物の時価
  • 配偶者の年齢(平均余命)
  • 法定利率

などから計算されます。
たとえば80歳の配偶者であれば、居住権の価値は建物全体の2~3割程度になるケースが多いです。

つまり、自宅全体を妻が相続するよりも、評価額が大幅に下がるため、一次相続の相続税を抑えることができます。

一次相続でのメリット

一次相続で配偶者居住権を使うと、次のような効果があります。

一次相続の相続税が減る

同じ「住み続ける」結果でも、居住権にすれば評価額が低くなるため、相続税の課税対象が減ります。

さらに、配偶者には、相続税の配偶者控除(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)があるため、一次相続では多くのケースで税額がゼロになります。

しかし、問題は「次(=二次相続)」です。

二次相続を考えないと損をする

夫が亡くなった一次相続では、配偶者控除によってほとんど税金がかからないケースが多いです。
ところが、その後に妻が亡くなったとき(二次相続)には、控除が使えなくなり、子どもたちの負担が重くなることがよくあります。

このとき、一次相続で妻に自宅の「所有権」を渡してしまうと、その自宅が妻の財産としてまるごと二次相続の課税対象になります。

一方で、一次相続で妻に「配偶者居住権」だけを相続させた場合、次のような効果が出ます。

配偶者居住権は「消滅」して終わる

配偶者が亡くなると、その居住権は自動的に消滅します。
つまり、二次相続で子どもたちが相続する財産にはならないのです。

結果として、妻の財産が少なくなり、二次相続時の相続税が軽減されます。

自宅の所有権はすでに子どもが取得済み

一次相続の段階で、建物・土地の所有権はすでに子どもに移っています。
したがって、二次相続時に「再び課税される」こともありません。

これは、次のようにイメージするとわかりやすいでしょう。

財産の分け方 一次相続時 二次相続時
自宅を妻が所有 妻が所有権を相続(評価高) 妻死亡時に自宅全体が課税対象
居住権+所有権分割 妻:居住権(評価低)
子:所有権
妻の死亡時に居住権は消滅=課税なし

具体的な節税効果のイメージ

たとえば、次のような例を考えます。

自宅:時価4,000万円
預金:2,000万円
相続人:妻・長男

(A)妻が自宅を相続する場合

妻の相続財産=自宅4,000万円+預金2,000万円=6,000万円

二次相続では、この6,000万円に加えて、妻自身の預金などが課税対象になります。

(B)配偶者居住権を設定する場合

居住権評価=約1,200万円(建物の3割と仮定)
残りの所有権(土地・建物の持分)は長男が取得

一次相続時の妻の相続財産は預金2,000万円+居住権1,200万円=3,200万円。
一次相続税はほとんどゼロ。
そして二次相続では、居住権は消滅するため、妻の財産から除外されます。

結果として、二次相続の課税対象が数千万円減ることになります。

注意点と実務上のポイント

配偶者居住権は便利な制度ですが、実際の運用にはいくつか注意が必要です。

  • 遺産分割協議書に明確な記載が必要(「居住権を設定する」旨を明記)
  • 登記手続きが必要(居住権を登記しておかないと第三者に対抗できません)
  • 固定資産税や修繕負担の扱いは個別に取り決めが必要
  • 不動産の売却・再利用が難しくなる(居住権がある限り売却困難)

そのため、制度を利用する際は、税理士・司法書士・弁護士など専門家チームでの検討が欠かせません。

配偶者居住権のポイントをまとめると、次の通りです。

✅ 一次相続で配偶者の税負担を抑えられる
✅ 二次相続では居住権が消滅し、課税財産が減る
✅ 結果として「トータルの相続税」を減らせる

相続対策は「誰がどれだけもらうか」だけでなく、「その後、どんな税金がかかるか」を見通すことが大切です。

配偶者居住権は、「配偶者を守りながら、子世代に資産を円滑に引き継ぐ」ための新しい手段です。

もし、
「自宅は妻に住み続けてほしい」
「でも将来の税金もできるだけ減らしたい」
そんな想いがある方は、ぜひ専門家にご相談ください。

一次相続での工夫が、二次相続での大きな安心につながります。

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