相続した土地を市町村に寄付したい ― 相続税はどうなる?非課税になる場合と注意点を専門家が解説 ―

「相続した土地を自分では使わないから、地域のために役立ててほしい」
そう考えて、市町村や国に寄付したいというご相談は少なくありません。

しかし、この「善意の寄付」も税務上は慎重な判断が必要です。
相続税の課税関係、寄付の可否、そして非課税が認められるケースには明確な条件があります。

今回は、相続財産の土地を国・市町村などに寄付した場合の税務上の取扱い実務上の注意点を、具体的な事例を交えて解説します。

事例:相続した使わない土地を寄付したい

例として、次のケースを考えてみましょう。

  • 被相続人(父)が所有していた郊外の宅地(評価額1,000万円)
  • 相続人は長男ひとり
  • 長男は都会に住み、その土地を使う予定がない
  • 「父の地元の市に寄付して、公園や公共施設として使ってほしい」と考えた

この場合、税務と実務はどうなるのでしょうか。

 ① 相続税の原則:一度は課税対象に含まれる

相続税は、「相続によって財産を取得した時点」で課税関係が発生します。
したがって、寄付をする意思があっても、相続時にはその土地は一旦、相続人が取得した財産として評価され、遺産総額に含めて相続税を計算します。

つまり、寄付するかどうかに関係なく、相続税の申告書にはその土地をいったん含める必要があります。

しかし!一定の要件を満たせば「相続税が非課税」にできる

ここで重要なのが、相続税法第21条の3第1項第2号です。

この条文により、

「相続または遺贈により取得した財産を、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに国・地方公共団体・公益法人などに寄附した場合」
には、その寄附に相当する価額については相続税を課さない(非課税)

と定められています。

👆 非課税が適用される寄付の主な条件

  1. 相続や遺贈によって取得した財産であること
  2. 相続税の申告期限(10か月以内)までに寄付を完了していること
  3. 寄付先が以下のいずれかであること
    – 国
    – 地方公共団体(都道府県、市区町村)
    – 公益を目的とする法人(学校法人、社会福祉法人、公益財団法人など)
  4. 公共または公益の目的に供するための寄付であること

これらの要件をすべて満たす場合、その寄付した財産(例:土地1,000万円)は相続税の課税対象から除かれます。

寄付の時期と手続きに注意

非課税とするためには、「寄付の完了」が申告期限内に必要です。

つまり、口約束や意向表明ではダメで、実際に自治体との間で寄付契約が成立し、登記の名義変更(移転登記)が完了している必要があります。

たとえば、

  • 相続税の申告期限が翌年1月末
  • 12月に寄付の話を持ちかけても、自治体の議会承認や調査が間に合わない

というケースでは、期限に間に合わず非課税の適用が受けられないことになります。

したがって、寄付を検討する場合は、早め(相続開始から2〜3か月以内)に自治体へ相談することが肝心です。

市町村が寄付を受けてくれないことも多い

実はここが現実的な最大のハードルです。

市町村は、寄付の申し出があっても簡単には受け入れません。
次のような理由で、寄付を断られるケースが少なくないのです。

  • 公共の用途に適さない(細長い・崖地など)
  • 土地の管理・草刈り・除雪などの維持費がかかる
  • 境界や権利関係が不明確
  • 土壌汚染や越境問題のリスクがある
  • 受け入れても使い道がない

このため、実務上は「寄付をしたくても受けてもらえない」例が非常に多いのが現状です。

寄付できなかった場合の選択肢

寄付が成立しない場合、土地は当然ながら相続人のままです。

相続税はそのまま課税され、固定資産税や管理の手間も続きます。
その場合、次のような代替手段を検討できます。

(1)国庫帰属制度(令和5年4月開始)を利用

不要な土地を国が引き取る制度です(法務局が窓口)。
ただし、境界・汚染・担保など厳しい要件があり、原則として負担金(20万円程度)が必要です。

(2)売却して現金を寄付する

不動産会社を通じて売却し、得た現金を市やNPOに寄付する方法です。
この場合、譲渡所得税はかかりますが、寄付金控除の対象となることが多く、実務的にはこちらの方がスムーズです。

(3)公益法人や社会福祉法人への寄付

市町村が受け取らなくても、地元の学校法人や社会福祉法人などが公共目的で受け取るケースもあります。
これも一定の条件を満たせば相続税非課税になります。

相続税・所得税の整理

税目 内容 寄付した場合の取扱い
相続税 相続時に一旦課税対象となる 申告期限内に国・市町村・公益法人へ寄付 → 非課税(相続税法21条の3)
譲渡所得税 通常は課税対象 国・自治体・公益法人への寄付は非課税(所得税法9条1項11号)
固定資産税 相続時以後、名義人に課税 寄付後は不要(引渡し完了後)

実際の流れのイメージ

  1. 相続発生(被相続人死亡)
  2. 相続人が寄付を検討
  3. 市町村へ「寄付申出書」を提出
  4. 現地調査・議会承認(1〜3か月)
  5. 寄付契約締結・所有権移転登記
  6. 相続税申告書で当該財産を「非課税財産」として記載

※期限(10か月)を過ぎてからの寄付は非課税になりません。

まとめ

ポイント 内容
相続税の非課税 国・地方公共団体・公益法人へ申告期限内に寄付した場合に適用(相続税法21条の3)
譲渡所得税 国や自治体への寄付は非課税(所得税法9条)
手続きの期限 相続開始から10か月以内に寄付が完了している必要あり
実務上の注意 自治体が寄付を受けてくれるとは限らない(事前相談必須)
他の選択肢 国庫帰属制度、売却して寄付、公益法人への寄付など

相続財産を寄付するというのは、社会貢献として非常に意義のある行為です。
しかし、非課税扱いになるためには期限と手続きの正確さが不可欠です。
また、市町村が必ずしも受け入れてくれるわけではないため、「寄付の意思を持ったら、まず自治体と税理士に早めに相談する」ことが何より大切です。

善意を確実に形にするために、制度を正しく理解し、専門家の助けを借りながら、スムーズな寄付手続きを進めましょう。

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