相続人がいないとき、土地や財産はどうなるの?

~少子化時代に備える「相続人なき相続」の行方~

近年、相続の現場で増えているのが「相続人がいない」ケースです。
少子化や未婚率の上昇、兄弟姉妹も高齢化して先に亡くなるなどの理由で、「親族が誰もいない」「相続の手続きが進められない」といった事態が起こることがあります。

こうした「相続人のいない相続」は、一般の方には想像しにくいものですが、実は年々確実に増えています。
では、そのような場合に 土地や預金などの財産はどう処理されるのか?
また、 税務上は相続税の申告が必要なのか?
順を追ってわかりやすく解説していきましょう。

1.相続人がいないとはどういう状態か?

まず、民法上の「相続人」とは、次のように定められています。

   第1順位:子(または孫などの直系卑属)

   第2順位:父母などの直系尊属

   第3順位:兄弟姉妹(亡くなっていればその子=甥・姪)

配偶者がいる場合は、常にこの順位の人と一緒に相続人になります。

したがって、

  • 子どもがいない
  • 親もすでに他界
  • 兄弟姉妹もいない、または全員亡くなっている

このような場合に「法定相続人が存在しない状態」となります。
この状態を法律上、「相続人不存在(そうぞくにんふそんざい)」といいます。

2.相続人がいないと財産はどうなるのか?

相続人がいない場合でも、亡くなった方(被相続人)の財産は放置されません。
民法では次のような手順で処理されることになっています。

まず「相続財産管理人」が選ばれる

相続人がいない場合、そのままでは誰も財産を管理できません。
そのため、利害関係人(たとえば隣地の所有者、債権者、自治体など)が家庭裁判所に申し立てを行い、「相続財産管理人」が選任されます。

この管理人は、弁護士などの専門家が選ばれることが多く、亡くなった方の財産を整理し、借金や未払い金の支払い、遺品の整理、土地の管理などを行います。

次に「債権者や受遺者への弁済」

被相続人に借金がある場合、管理人は公告(こうこく)を出して債権者に名乗り出てもらいます。
また、遺言があり「特定の人に遺贈する」と書かれていれば、その人(受遺者)に渡されます。

公告期間を経て、支払うべきものを支払い、残った財産があれば次の段階へ進みます。

それでも残った財産は「国庫に帰属」

債権者への支払いも終わり、受遺者もいない場合、最終的に残った財産は 国(国庫)に帰属 します。

つまり、

  • 預金 → 国が回収
  • 土地や建物 → 国が引き取る

という流れになります。
この状態を「相続財産の国庫帰属」といいます。

3.相続人がいない土地はどうなるのか?

相続人がいない場合、特に問題となるのが「土地」です。
所有者が亡くなっても、名義がそのまま放置されてしまうと、固定資産税の納付書も届かず、草が生い茂ったまま放置される「空き地・空き家問題」が発生します。

こうした問題を防ぐために、2021年の民法改正や2024年4月からの「相続登記の義務化」などで、国としても所有者不明土地を減らす方向に舵を切っています。

相続人不存在の場合、家庭裁判所の管理下で相続財産管理人が土地を売却したり、買い手がいない場合は国が最終的に引き取ることになります。
ただし、国がすぐに受け取ってくれるわけではなく、原則として相続財産管理人が清算手続きを経て、ようやく国庫帰属という流れになります。

4.相続税の申告は必要なの?

ここで多くの方が疑問に思うのが、「相続税の申告はどうなるの?」という点です。

結論から言うと――
相続人がいなければ、原則として相続税の申告義務はありません。

なぜなら、相続税は「相続人が財産を取得したこと」に対して課される税金だからです。
相続人が存在しない以上、相続による財産取得者がいないため、税務上の「申告義務者」も存在しない、という扱いになります。

ただし例外もあります。

遺言によって特定の人や団体(たとえば友人、知人、NPO法人など)に財産を遺贈していた場合、その受遺者が 相続税の申告義務者 になります。

この場合、受遺者は相続人ではなくても、「相続税法上の受遺者」として課税対象となります。

【ポイント整理】

状況 相続税の申告は必要? 申告義務者
相続人がいない、遺言もない 不要 なし(最終的に国庫へ)
遺言で受遺者がいる 必要 受遺者本人
相続財産管理人が選ばれた 相続税ではなく、財産の清算・報告義務のみ 相続財産管理人(税務申告義務はなし)

5.実際の手続きの流れ

【相続人がいない場合】

死亡

法定相続人なし

家庭裁判所へ申立て

相続財産管理人の選任

債権者・受遺者への公告

支払い等の清算

残余財産 → 国庫帰属

6.相続人がいないときこそ「準備」が必要

相続人がいないと、財産は最終的に国に帰属します。
しかし、本人が生前に「お世話になった人へ」「地域や団体へ」「寄付したい」などの意思を持っていた場合、遺言書を作成しておけば希望どおりに財産を渡すことができます。

特に、配偶者も子どももいない方の場合、遺言がなければ自動的に「国のもの」となってしまうため、せっかく築いた財産の行き先は自分の意思で決めておくことが重要です。

相続人がいないという状況は、本人にとっても、地域にとっても決して他人事ではありません。
今の日本では、独身のまま高齢期を迎える方が増え、
こうした「相続人不存在」のケースは今後ますます増えると見られています。

重要なのは、生前の備えです。

  • 遺言書を作る
  • 財産の管理を任せる信頼できる人を決めておく(任意後見制度など)
  • 財産の行き先を明確にする

これらの準備をしておくだけで、自分の築いた財産が望まぬ形で国に帰属することを防ぐことができます。

相続人がいない場合の手続きは、家庭裁判所・法務局・税務署など複数の機関が関わるため、個人で行うのは難しいケースが多いです。
弁護士・司法書士・税理士など、相続に詳しい専門家へ早めに相談することをおすすめします。

 

💡ポイント

  • 相続人がいない場合は「相続財産管理人」が財産を整理する
  • 遺言がなければ、最終的に財産は国に帰属
  • 相続税申告は原則不要(ただし遺贈がある場合は受遺者が申告)
  • 生前の「遺言」「信託」「後見」などの準備が今後さらに重要に

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