「相続対策は、もう少し先でいい」
「うちはそこまで財産が多くないから関係ない」
多くの方が、そう考えています。
しかし、実務の現場で数多くの相続を見てきた立場から申し上げると、“何もしていない人ほど、確実に損をする”というのは紛れもない事実です。
しかもその損は、単に「税金が少し増える」といったレベルではありません。
場合によっては数百万円、数千万円単位で手取りが変わり、さらには家族関係にまで深刻な影響を及ぼします。
相続対策は具体的に何をすればいいのかわからないという方でも、比較的、手軽に始めやすいのが生前贈与です。
しかし、手軽に始められるとはいっても、いざ実行しようとなると実務上の労力やタイミングなど注意すべき点もあり、結局何もしなかった、という方もたくさんおられます。
結果、何の対策もできていないまま突然相続が始まってしまい、想像以上のお金がかかってしまうことも…
ではなぜ、生前贈与をやらないと損をしてしまうのか。
その理由を、実務で特に多い3つの視点から解説します。

1.税金を“自ら増やしてしまう”という損
相続税は、亡くなった時点で保有している財産に対して課税されます。
つまり何も対策をしていなければ、
これまで築いてきた資産がそのまま丸ごと課税対象になるということです。
ここで重要なのが、生前贈与との違いです。
例えば、よく知られている年間110万円の贈与非課税枠。
これを活用するだけでも、
- 子ども2人に10年間贈与 → 2,200万円の移転
- 孫まで含めて20年間 → 数千万円規模の移転
といった形で、着実に課税対象を減らすことができます。
さらに見落とされがちなのが、
“将来の値上がり分まで切り離せる”という点です。
例えば、将来値上がりが見込まれる不動産や株式を早めに贈与しておけば、その後の増加分はすべて受贈者側の財産になります。
つまり、
- 何も対策をしていない人 → 現在+将来の増加分まで課税
- 早めに贈与している人 → 現時点の価値で課税対象を圧縮
という決定的な差が生まれるのです。
この差は時間が経つほど拡大します。
「あとでやればいい」と先送りした数年が、結果として数百万円以上の差になることも珍しくありません。
2.“やろうと思った時には遅い”という損
もう一つ大きな落とし穴が、「タイミング」です。
生前贈与は、理屈の上ではいつでもできるように思えます。
しかし現実には、そう簡単ではありません。
例えば、
- 高齢により判断能力が低下した
- 突然の入院や介護状態になった
- 家族との意思疎通が難しくなった
このような状況になると、法的にも実務的にも贈与が難しくなるケースが出てきます。
さらに注意すべきなのが、いわゆる“駆け込み贈与”です。
亡くなる直前の贈与については、一定期間さかのぼって相続財産に加算されるルールがあります。
つまり、「そろそろ危ないから今のうちに贈与しておこう」と思っても、制度上すでに手遅れになっている可能性があるということです。
実際の現場では、
「もう少し早く動いていれば、数千万円は違ったのに…」
「数年前に相談していれば、選択肢はいくらでもあったのに…」
といったケースを数えきれないほど見てきました。
相続対策は、「やるかやらないか」以上に、“いつ始めるか”が結果を大きく左右する分野なのです。
3.家族トラブルを引き起こすという損
そして、最も見過ごされがちでありながら、実は最も深刻なのが「家族関係への影響」です。
生前贈与を行っていない場合、財産はすべて相続発生時に一度に分けることになります。
すると、
- 「誰がどれだけもらうのか」
- 「不動産をどう分けるのか」
- 「面倒を見てきた人の取り分はどうするのか」
といった問題が、一気に表面化します。
特に不動産が多い家庭では、「分けられない資産」を巡って対立が激化しやすく、
結果として売却や訴訟に発展するケースも少なくありません。
一方で、生前贈与を計画的に進めている家庭では、
- 少しずつ資産を移転できるため公平感を調整しやすい
- 親の意思を生前に明確に伝えられる
- 相続時の“争点”を事前に減らせる
といった効果があります。
実務上感じるのは、揉める家庭の多くは「特別に仲が悪い」のではなく、“準備ができていないだけ”ということです。
では、とにかく贈与すればいいのか?
ここまでお読みいただくと、
「すぐにでも贈与を始めた方がいいのでは」と感じられるかもしれません。
その感覚自体は正しいのですが、ここで注意しなければならない点があります。
それは、生前贈与はやり方を間違えると逆効果になるということです。
例えば、
- 名義だけ子どもにして実質的には親が管理している(名義預金)
- 贈与契約書がなく、実態が曖昧
- 相続とのバランスを無視した偏った贈与
こうしたケースでは、税務調査で否認され、
「贈与したはずの財産が相続財産に戻される」こともあります。
さらに、贈与税と相続税のバランスを誤ると、トータルで見るとかえって税負担が増えてしまうこともあります。
だからこそ重要なのは、単に贈与をすることではなく、「全体設計の中で最適な形で進めること」です。
対策の差は「今」で決まる
生前贈与は、単なる節税テクニックではありません。
それは、
「どのように資産を引き継ぎ、家族に何を残すのか」
という人生設計そのものです。
そしてこの設計は、早く始めるほど選択肢が増え、柔軟な対応が可能になります。
逆に、「まだ大丈夫」と何もしないままでいると、気づいた時には選べる手段が大きく制限されてしまいます。
もしあなたが、
- 自分の資産規模だと何から始めるべきか分からない
- 贈与と相続、どちらを優先すべきか判断できない
- 税務署に否認されない進め方を知りたい
と感じているのであれば、一度、現状を客観的に整理してみることをおすすめします。
同じ1億円の資産でも、
“設計している人”と“何もしていない人”では、最終的な手取りは大きく変わります。
そしてその差は、将来ではなく
「今この瞬間の判断」から生まれます。
「まだ早い」ではなく、
「今だからこそできることがある」
そう考えることが、
最も大きな損失を防ぐ第一歩になります。



