「この土地は、いずれ子どもに残してやろうと思っているんだ。」
そう話される親御さんは少なくありません。確かに一昔前まで、不動産は“持っているだけで価値が上がる資産”でした。
しかし時代は大きく変わりました。
人口減少、地方の過疎化、空き家問題の深刻化、こうした背景の中で、今や不動産は持っているだけで負担になる“負動産”へと変わるケースが増えています。
そして厄介なのは、この問題が子どもの代になって初めて表面化するという点です。

なぜ“負動産”は相続後に発覚するのか
親世代にとって、その土地は「思い出の詰まった大切な資産」です。固定資産税も安く、近所付き合いもあり、特に困ることはありません。
しかし相続が発生した瞬間、状況は一変します。
子ども世代の多くは都市部に生活基盤があり、地方の不動産を使う予定がありません。
いざ売却しようとしても買い手が見つからず、貸そうにも需要がない。
結果として、
- 固定資産税だけがかかり続ける
- 管理のために時間や費用がかかる
- 放置すれば近隣トラブルの原因になる
という「持っているだけでマイナス」の状態に陥ります。
つまり、親にとっての“資産”が、子どもにとっては“負担”へと変わってしまうのです。
実務で増えている“負動産”の典型例
現場でよく見かけるのは、次のような不動産です。
- 老朽化が進み、修繕も困難な空き家
- 利用価値がなく、需要も見込めない地方の土地
- 接道条件を満たさない再建築不可物件
- 管理が行き届かない山林や原野
これらに共通するのは、「売れない・貸せない・使えない」にもかかわらず、「税金と管理コストだけは発生する」という点です。
防ぎ方①:「出口」から逆算して不動産を見直す
負動産を防ぐ第一歩は、“今ある不動産を正しく評価すること”です。
ここで重要なのは、「いくらの価値があるか」ではなく、「最終的にどうやって手放せるか(出口があるか)」という視点です。
不動産は大きく3つに分類できます。
- 収益を生む優良資産(保有継続)
- 活用次第で価値が出る資産(改善検討)
- 出口が見えない不要資産(処分検討)
この仕分けを先送りにすると、問題は必ず次世代へ持ち越されます。
防ぎ方②:「売れるうちに売る」という決断
実務上、もっとも重要でありながら、もっとも難しいのがこの判断です。
「もう少し待てば値段が上がるかもしれない」
「思い入れがあって手放せない」
こうした気持ちは自然ですが、市場は待ってくれません。むしろ人口減少が進む中で、売却環境は年々厳しくなる可能性が高いのが現実です。
多少価格が低くても、
「売れるタイミングで現金化する」ことが最大のリスク回避策です。
相続後に共有状態になれば、売却のハードルはさらに上がります。
意思決定ができる“今”こそが、最も重要なタイミングなのです。
防ぎ方③:残すなら“理由”と“収益性”を明確にする
すべての不動産を売るべきというわけではありません。
問題は、「なぜ保有し続けるのか」が曖昧なまま放置されることです。
残すのであれば、最低限次の視点が必要です。
- 将来的に誰が使うのか
- どのように収益を生むのか
- 維持管理を誰が担うのか
例えば、駐車場として活用する、借地として貸し出すなど、“負担を軽減する仕組み”を作ることが重要です。
防ぎ方④:名義・境界・管理体制を整える
意外に見落とされがちですが、実務では非常に重要なポイントです。
- 名義が先代のままになっている
- 境界が未確定でトラブルリスクがある
- 管理する人が決まっていない
このような状態では、売却も活用もスムーズに進みません。
結果として、価値があっても“動かせない不動産”になってしまいます。
防ぎ方⑤:「節税対策」より「承継対策」を優先する
税理士として強くお伝えしたいのはここです。
相続対策というと、「いかに評価額を下げるか」「いかに税金を減らすか」に意識が向きがちです。
しかし現場では、
「引き継いだ後に困らないか」という視点の方が、はるかに重要です。
いくら評価を下げても、処分できない不動産を残してしまえば、結果的に家族の負担は大きくなります。
最大のリスクは「何もしないこと」
負動産問題の本質は、突き詰めるとシンプルです。
「意思決定の先送り」これに尽きます。
- まだ大丈夫だろう
- そのうち考えよう
- 子どもが何とかするだろう
こうした積み重ねが、次世代に大きなツケとして回ります。
相続は、単なる財産の引き継ぎではありません。
家族の未来をどう設計するかという問題です。
「この不動産は本当に子どものためになるのか?」
一度、冷静に見つめ直してみてください。
その一歩が、“争族”や“負動産”を防ぐ最善の対策になります。



